蓄電所の3つの収益源
kWh・kW・ΔkW——3市場を足し算できない理由
「3つの市場で収益が得られます」——蓄電所の説明でよく聞くフレーズです。
しかし、同じ蓄電池の同じ出力・容量を、同じ時間帯に複数の用途へ重ねて使うことはできません。卸電力市場で高値時間に放電したい時間と、需給調整市場の調整力として確保しておく時間がぶつかります。
「3市場の収益を足し算できる」という前提のシミュレーションは、多くの場合、現実と乖離しています。正しい問いは「3つの市場をどう優先して組み合わせるか」です。
3つの市場が取引しているものは何か
3市場は、卸電力市場=kWh価値(電力量)、容量市場=kW価値(供給力)、需給調整市場=ΔkW価値(調整力)を扱います。取引しているものが根本的に異なるため、単純には足し算できません。[1]
| 市場 | 価値 | 蓄電池の役割 |
|---|---|---|
| 卸電力市場 | kWh(電力量) | 安い時に充電し、高い時に放電する |
| 容量市場 | kW(供給力) | 必要時に出せる能力を提供する |
| 需給調整市場 | ΔkW(調整力) | 需給バランスのため素早く出力を変える |
卸電力市場——kWh価値
スポット市場では、翌日に受け渡す電気が取引されます。蓄電所は、価格が低い時間帯に充電し、高い時間帯に放電して価格差収益を狙います。
確認点は、①価格差が十分か、②電池劣化コストを含めているか、③EMSがタイミングを適切に判断できるか。シンプルに見えて、運用精度と劣化管理に大きく左右されます。
容量市場——kW価値
容量市場は「必要な時に電気を出せる能力」に価値をつける市場です。OCCTOが対象実需給年度ごとに募集要綱・契約約款等を公表しています。[2]
蓄電池は、充電しておけば供給力になり得ます。ただし、参加区分に応じて、期待容量、実効性テストの要否、容量確保契約上の義務、ペナルティを確認する必要があります。「待機していればよい」ではなく「必要時に必ず使える状態」が前提です。
需給調整市場——ΔkW価値
需給調整市場は、需給バランスを保つための調整力を取引します。蓄電池は出力を速く変えられるため期待されています。2026年度の取引では、一次調整力~三次調整力①の30分ブロック化・前日取引化、機器個別計測・低圧リソース参入などが導入されています。[3]
参加には、商品ごとの応動性能、計測、通信、アグリゲーター連携が必要です。「蓄電池があれば参加できる」わけではありません。
3市場の組み合わせ——運用設計が収益を決める
収益を最大化するには、市場の優先順位、SOC管理、電池劣化、アグリゲーターとの役割分担を統合した運用設計が必要です。EMSがこの運用設計を実行できるかが、蓄電所の収益を大きく左右します。
この記事のポイント
- 3市場は取引している価値が根本的に異なる
- 同じ出力・容量を同じ時間帯に複数市場へ重ねて計上することはできない
- 容量市場は「必ず使える状態の維持」が前提
- 需給調整市場には設備性能・計測・通信・アグリゲーター連携が必要
- EMSの運用設計の質が収益を左右する
一般社団法人 日本系統蓄電所評価協会(JGBEA)について
一般社団法人 日本系統蓄電所評価協会(JGBEA)は、系統用蓄電所を設備単体ではなく、電力システムを構成する社会的インフラの一部として捉えています。
安全性、運用信頼性、経済性、環境・持続性、系統価値の5つの視点から評価体系を整理し、評価・研究調査・政策提言・情報発信を行っています。